ガルバン様が少し怖い顔で僕を見てくる。
「間違うなんて事は無い!! 今まで魔術師と言われてきた人たちが代々にして使用し、伝えて来たものなのだ。書き写したものもたくさんあるし、それが間違っているという事は無い。現に今使えているではないか」
「そうなんだけど……僕が言いたいのはそういう事じゃなくて……」
「どういう事だ?」
僕を見る3人が真剣な目を向けてくる。
「ちょっと試したことが有るんだけどいいかな?」
「ん? まあいいだろう」
「ガルバン様にお願いしたいんだけど、さっきの火の球よりも小さいものって出せる?」
「え?」
「だからさっきの火の玉よりも小さい奴だよ」
「…………」
「もしかして出せないのかな?」
今度は少し困った顔をするガルバン様。
「あれが一番小さい火の玉の魔法なのだ」
「あぁ~やっぱり」
「ロイドどういうことだ!? 何か考えついたのか!?」
「ちょ――ま、まってーーゆら、さないで!!」
ガルバン様が僕の方を両手でつかんでがくがくと前後に揺さぶる。
「す、すまん……」
「いや、まったく、親子から同じことされるなんて思わなかったけど」
「「ご、ごめんなさい」」
少したって落ち着いたガルバン様が頭を下げた。そして僕の言葉に自分にも経験があったアスティもまた同じように頭を下げる。
「まぁいいや。たぶんこれからするのはガルバン様には難しいかもしれないです」
「な、なんだと!? 魔術師団団長の私でもか!?」
<「……本当にロイドは……。まぁそれだけじゃない。ロイドの噂話を知っていても、ロイドと婚約を結ぶんだという事を、そしてこれからはアイザック家の……ロイドの後ろ盾には我がアルスター家も付いているのだという事を、世の中に広げるためだな」「僕のために?」「うん? ロイドの為だけではないよ」「そう。ならいいんだ」 僕はこくりと頷く。それからしばらくはちょっとした世間話などをして、町の中へと付くまでの時間を過ごした。 ドランの町には真ん中に町の象徴とする大きな噴水があり、その噴水を中心にして円形に公園のような作りになっていて、その外側から家やお店などが立ち並ぶ作りになっている。 町の中を通る道は、その噴水から東西南北へ縦断する形に伸びていて、どの方向へも行けるようになっていて、町の一番外側にはモンスターと呼ばれる者たちや、魔獣と呼ばれるモノたちから住んでいる人たちを護るために、石でできた高い壁と門に守られている。そんな町の中で一番端にアイザック家の屋敷があるので、途中には林なども有って町としてはかなり広いのだと父さんが言っていた。 でも一番の防御力としては父さんや領兵の人達がいるので、住んでいる人たちもそんなに危ない目にはあった事が無いはず。 僕は久しぶりに町へと向かう道すがらそんな事をぼんやりと考えていた。 町の中の中心地である噴水のある公園に、僕達の乗るアルスター家の馬車が到着した時には、既に多くの人達が公園へと集まっていた。「うわぁ~……いっぱいいるなぁ&he
「え? 何それ、うらや……かわいいじゃない」「そんなにいいものじゃないよ……」 アスティがちょっとだけウキウキしているのを見ながら、思い出す光景にげんなりしてしまう。「おいマクサスどういう事だ?」「あぁ、言ってなかったか? ロイドが町に行くのを止めている理由の一つがそれだ」「動物が近寄る位なら構わんだろ?」「いや……ロイドの場合はな……。町中の動物がロイドの姿を見てしまうと、寄ってきてしまうのさ」「なに? それって……」「あぁ、原因は分からん。だが、それが町の中だけならまだいいんだが、町の外でも同じなのだ」「ではもしかして魔獣やモンスターと呼ばれるモノ達も……と言う事か?」「モンスターはなるべく屋敷に近づく前に俺たちが倒しているから問題は無い。屋敷の敷地の中だけに居るのならな……。だから実際にそういうモノと遭遇したらどうなるかは分からん」 アスティと僕が、集まってくる動物たちの事を話している時に。父さんとガルバン様がそんな会話をしている事には気付いていなかった。「ふむ。確か……王城の資料室で、そのような事が得意としている者達がいたというのを読んだことが有るな」「あぁ俺も読んだ。確か……動物使いとか魔獣使いなどと呼ばれているらしいが、今でもいるには居るが数少ないようだ」「ロイドはそれだと?」「……どうなのだろうな。実際その者達がどうやって飼いならして
ある日の昼の鐘の後――。「ロイド様」「ん? どうしたのフレック」 部屋の中で珍しく一人で本を読んでいると、ドアをノックした後にフレックが顔を出した。「はい。旦那様がお呼びでございます。執務室へ来るようにとのことです。いかがいたしますか?」「そうなの? 何の用か聞いてる?」「いえ、来てから話すとのことです」「わかった。すぐ行くと伝えてくれる?」「かしこまりました」 読んでいた本をパタリと閉じて、僕はドアの方へと向かう。フレックは既に父さんの所へ行ったようでもう姿は無い。――何かあったのかな? 一瞬だけ、何か起こられる事でもしたのかな? と考えたのだけど、僕の記憶にはそのような事をした覚えはない。 考えながら執務室まで進んでいき、結局思いつかないままそのドアを叩いた。「ロイドです」「入れ!!」「失礼します。お呼びとお聞きして参上しました」「うむ、まずは座れ」「はい」 いつになく真面目な顔をした父さんが、既にソファー座りお茶を飲んでいた。その対面に僕も座る。 すぐにぼくの前にもフレックがお茶を用意してくれた。「それで話って?」「あぁ。実はなあのヨームの件でな」「ヨームの?」「そうだ。ガルバンとも話をしていたのだが、すでに屋敷の中のモノたちと、領兵たちの間ではヨームを使用することが広まって、その便利さを理解し始めている」「うん」「それでだ……」「それで? ドランの町でもヨームを使い始めてみないかという話になった」
僕らのやり取りがあった次の日には、既にアルスター家の長期アイザック家滞在が確定事項となって伝達された。 しかも期間は未定と発表されたので、ガルバン様たちと一緒にアイザック領へと来たアルスター家の護衛の人達や、領兵の人達は何組かに分かれて一旦アルスター領へと順番に戻ることになった。 更に期間が決まっていないという事で、いつまでも屋敷の庭先にいるわけにはいかないと、ドランの町とアイザック家の屋敷までの間で、道に沿って林などを切り倒し、簡易的な家を数件造ることに。 そこにアルスター家のガルバン様たち以外が住むことになるのだが、アルスター家の人達が自領に戻った際は、その建物を自由に使っていいという事で話を纏め、ウチではそこを迎賓館として使用することに決定した。。 出来上がるまでは時間がかかるし、それまでは今と変わらず屋敷の庭で過ごしてもらう事にはなるんだけど。 僕とアスティの方はというと、相変わらず朝から勉強をしたり、魔法の使いか他をあれこれ考えたりと忙しい毎日を過ごしていた。 フィリアはアスティだけじゃなく、ガルバン様やメイリン様とも仲良くなって、一緒に遊んでもらう事さえある。 1度、ガルバン様が馬役になってそれにフィリアがまたがっているところを見たときは、僕だけじゃなくアスティも凄く驚いていた。その驚いた理由も「私でさえしてもらった事が無いのに」という、ちょっとだけフィリアを羨ましいと思う気持ちから来てるみたいだけど。「できた!!」「さすがアスティ」 僕は喜ぶアスティへ拍手を送る。滞在期間が既に30日を過
「ガルバン様」 父さんと相談を始めたがガルバン様に声を掛ける。「どうしたロイド」「今、使ってる呪文の事だけど」「ふむ。話してみなさい」「うん」 父さんとガルバン様の話し合いはそこで一旦終わる。「アスティの魔法が上手くいかないのってどうしてなのかな?」「それは、アスティの魔力の使い方……制御が良くないからだろ?」 ガルバン様の言葉を聞いて、アスティがしょんぼりしてしまう。「僕の考えはちょっと違うんだ。実はその呪文を使うと、その呪文で決められた力しか出ないようになってるんじゃないかな?」「ん? 良く分からんな」 ガルバン様が考えこんでしまう。「呪文という決められた言葉を使って、5なら5の威力しか出なくしてるんじゃないかなって事」「な、なんだと……あ!? だから魔力量の多いアスティの魔法は、思った以上に魔力を込めてしまっているから、それ以上にならないために自然と消滅してしまうという事か?」「うん。その為の言葉が呪文なんだと思うんだけど、違うかな?」「それはどういう……」「だから呪文は誰にでもその魔法が打てるように考えられてつくられたものなんじゃないかな?」「…………」 ガルバン様もアスティも黙ったまま僕の言う事を考えている。「同じ呪文を使うのなら、同じ魔法を持っている魔力分だけは使えるでしょ?」「そうだな……」「持ってる魔力が多い人は多く打てるし、僕みたいにない人はもちろん打てない。こんなことはガルバン様ならもう知ってることだとは思うんだよね」「た、たしかに知っている事だ」「と、いうことはだよ? その呪文さえ覚えれば、魔力がある人なら誰でも同
ガルバン様が少し怖い顔で僕を見てくる。「間違うなんて事は無い!! 今まで魔術師と言われてきた人たちが代々にして使用し、伝えて来たものなのだ。書き写したものもたくさんあるし、それが間違っているという事は無い。現に今使えているではないか」「そうなんだけど……僕が言いたいのはそういう事じゃなくて……」「どういう事だ?」 僕を見る3人が真剣な目を向けてくる。「ちょっと試したことが有るんだけどいいかな?」「ん? まあいいだろう」「ガルバン様にお願いしたいんだけど、さっきの火の球よりも小さいものって出せる?」「え?」「だからさっきの火の玉よりも小さい奴だよ」「…………」「もしかして出せないのかな?」 今度は少し困った顔をするガルバン様。「あれが一番小さい火の玉の魔法なのだ」「あぁ~やっぱり」「ロイドどういうことだ!? 何か考えついたのか!?」「ちょ――ま、まってーーゆら、さないで!!」 ガルバン様が僕の方を両手でつかんでがくがくと前後に揺さぶる。「す、すまん……」「いや、まったく、親子から同じことされるなんて思わなかったけど」「「ご、ごめんなさい」」 少したって落ち着いたガルバン様が頭を下げた。そして僕の言葉に自分にも経験があったアスティもまた同じように頭を下げる。「まぁいいや。たぶんこれからするのはガルバン様には難しいかもしれないです」「な、なんだと!? 魔術師団団長の私でもか!?」